合掌

「お名前は?」

「立嶋です。」
名前をいうことなく、いきなり訪れて直ぐに後にしようと
思っていたのですが、電話で訊かれて応えないのも失礼なので
告げました。

「あら、立嶋くん」
金曜日どう?というので、行くことにしました。

金曜日はゴールドジム成田店での指導日ですが、お休みに
して出かけました。

ライターの布施さんの投稿をSNSで見て、訃報を知りました。
幾度も幾度も電話をしたのですが繋がることはなく、3日程前
ようやく繋がりました。

シンサック会長のことを知ったのは前田憲作の名を知る前になります。
仲よくしていた大江さんや勝山さんの指導をしていることで
知っていたのです。
トレーナーとしての手腕は彼らを見て、随分前から知っていました。

1992年、変更した対戦相手の彼ではなく、会長の彼を気に
していました。
嫌な空気でした。

「なんか嫌だな今日は、」
入場前からずっとそんな気がしていしました。

試合中、ずっと片言の日本語での指示が気になっていました。
自分が前田の攻撃を受ける度に起こるセコンドの換気がずっと
嫌でした。

言葉には出来ませんがそれがとても悔しかったのを覚えています。
逆に翌年に勝った時はとても嬉しかったのを覚えています。

敵側の師ですが、会えばいつも言葉を交わしていました。

30年位僕を応援し続けてくれている上野さんに連絡をしました。
1つ年上の彼は僕が十代の頃から試合を観てくれています。
声をかけたのも当然なのです。
10年前に入会してからというもの、毎週末船橋まで通って
くれています。
彼の住む隣の駅にS・V・Gはあるのに。

前田との2試合も当然、僕の試合だけでなくキックボクシングそのものが
好きな彼も、きっとシンサック会長にお焼香したいかなと思ったのです。

千歳烏山駅で待ち合わせして、15時に訪ねました。
駅前の3階にジムはあります。
ジムを訪ねて、お焼香してしばらく奥さんと話をしました。

当時のキック界のこと、今のそれや今後のそれ、考えは似ているような
ところがあると思いました。

ジムを後にして、上野さんと飯を食いに場所を移しました。
彼の地元の歩いて帰れる場所で、食いたかったのです。
それは長いこと応援してもらっている彼の特権かなとも思います。
彼だけでなく、同じペインの会員のみんなの地元に足を運んだら
顔出したいなと思っています。

芸能人でもなければ、誰もが知っているメジャーな競技の選手でも
ありません。
謙虚な振りをしている訳ではありません。
謙虚ではありませんが、偉そうにすることも嫌いです。

礼を云われたけれど、感謝をするはこちらの方です。

試合も勿論ですが、指導の方もより気持ちを引き締めて頑張りたい
と思います。

今日は、14時から上野さんはやって来ました。
5歳の子供もご両親の会員も、全部一緒に行いました。
明日、彼からも予約は入っています。
引き続き、なんとか頑張っていきたいなと思います。

千歳烏山駅から戻って、駅を出て、歩いて帰る元気がありませんでした。
後方からやってくるタクシーを拾いました。

「知ってますか?」
運転手に漫画の話をしました。

「今度、読んでみます。」
手塚治虫最後の作品、「ミッドナイト」について話したからです。

夜のタクシーといえばこの作品を思い出します。
ジャンプ全盛の時代、僕は、「チャンピオン」も愛読していました。
知ったかぶりは、手塚治虫はもう終わりだといっていましたが、
僕はその作品が好きでした。
チャンピオンなんて、僕の周りでは誰も読んでいませんでしたが。

明日、日曜日は17時からになります。
身体1つ気持ち1つでおいでください。
旨い飯食わせます。